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人間工学応用事例(GPDB)・GPDB表彰

CW-106 片手でも使いやすい介護食器「ヤサシサノカタチ。」

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概要

<製品の生い立ちと概要>

介護施設にいるお義母さんの昼食に付き添ったときのことです。脳梗塞の後遺症で半身麻痺があり食事が飲み込みづらいため、ミキサーにかけられたペースト状の食事が運ばれてきました。「食欲がわかない」と聞いていましたが、なるほど、色合いが悪く美味しそうに見えませんでした。また、プラスチック製の食器は病院食に見え、食欲をそそるものではありませんでした。
お義母さんは時々スプーンや箸を置いて休みながら食べていました。すると、スプーンを置くたびにお義父さんや主人が「食べ終わった?まだ残っているよ。」と聞いていました。私は「お義母さんはまだ食べているよ。せかさないで。」と、こんなやり取りが続いていた時のことです。お義母さんが
「監視されているみたいで嫌だ・・・」
と、小さな声でボソッと言いました。この一言が私の胸を突いたのでした。うつむいて黙って食事をしている姿を見て、自由に食事ができて、食欲がわく楽しい時間にしてあげたいと思ったのでした。

お義母さんは料理と食器集めが趣味でした。以前、私が住む名古屋に来た時も、焼物で有名な瀬戸へ行き、食器をたくさん買っていたのを思い出しました。「好きな陶器の食器で食事ができたら嬉しいかな」「思い出のある瀬戸で食器をつくってあげたら喜ぶかな」と思い、陶器製の片手でも使いやすい介護食器をつくりたいと考えました。

製作にあたり赤津焼・伝統工芸士・梅村知弘(弄月)先生の門戸をたたき、技術指導を頂きながら共に考え製作しました。赤津焼は愛知県瀬戸市赤津町地区で焼かれている焼物で、国の伝統的工芸品に指定されています。特徴は、織部釉、志野釉、黄瀬戸釉など7種類の釉薬と、へら彫り、印花、櫛目など12種類の多彩な装飾技法にあります。これらを駆使し、茶道具や華道具、日用品まで幅広く焼かれています。

○製作者 榎原瑠美(認定人間工学準専門家) / 赤津焼 伝統工芸士 梅村知弘(弄月)

匠の技

匠の者

<匠のことば>

「器は料理の着物」という言葉があります。昔から様々な形、装飾で料理を着飾ってきました。目で見て楽しみ、器で四季を感じ、人々の心を豊かにしてきたように思います。
幸せと感じる価値観や満足感は人それぞれ違うものです。食器を使う人の食生活に寄り添い、身体の症状を考慮しながら製作しました。それぞれの食器の形状は昔からある赤津焼の伝統技法から発想を得たものです。
○お茶碗:「よく見えるように」
お茶碗の傾斜の付け方は、小鉢や茶道具などにもある脚付きの器を応用しました。丸形の碗底は、塩笥(しおげ)という塩や味噌を入れる小壺から発想を得ました。塩笥(しおげ)とは、胴が膨らみ口が狭まった形のもので、昔から茶人が茶碗として用いていました。
○食器のフチ:「すくいやすいように・持ちやすいように」
食器のフチの内側カーブは、姥口(うばぐち)の返し方を応用して、片手でもすくいやすい形状にしました。姥口(うばぐち)とは、茶湯釜の口部のひとつで、口の周囲が高く盛り上がって、そこから内側に少し落ち込んだ形状のものをいいます。また、背面の波模様は輪花(りんか)を用いました。装飾として施したものですが、指が引っ掛かるので持ちやすいということでした。輪花(りんか)とは、縁部を花弁のような形状にして花形にする装飾技法です。
○長皿:「介護用食器を日用品に転用した発想」
食事の様子を観察し食器の背面を高くしたデザインはオリジナルの工夫です。背面を使ってもすくいやすい形状にしました。このデザインは片手が不自由な人への食器として製作しましたが、赤津焼の装飾技法である印花や櫛目などを施し芸術性を高め、カウンター席で一品料理の器として提供したり、花器として花を生けても面白いと思いました。

○写真左:赤津焼 伝統工芸士 梅村知弘(弄月)

<製品のこだわり>

お義母さんの場合、左半身麻痺の症状があるため食器を持って食べることができません。軽さや割れにくさよりも趣味嗜好に合わせた陶器製の食器であることにこだわりました。特徴は食器全体が傾斜していることです。食器の底(中身)がよく見えるので自分で食べ残しの確認ができます。周りからのストレスを感じることなく食事ができるようになりました。

○写真右:製作者 榎原瑠美


人間工学との接点

<人間工学との関わり>

一般に高齢者向けや介護食器は、軽くて落としても割れにくいプラスチックやメラミン樹脂の食器が多いです。しかし、このような食器が食卓に並んだ場合、病院食に見えたり、乳幼児用食器に見えるなど、利用者の自尊心を傷つけたり、疎外感を与えるかもしれません。
本来食事とは楽しいものです。満足感を得ること、好きなものを自由に食べること、気兼ねなく自分のペースで食事をすること、これらの要素は食べる楽しさにつながります。そして、食卓づくりやデザイン性のある食器も「食べたい」という「行動」「食欲」につながる大切な要素だと思います。
お義母さんは料理や食器集めが趣味だったので、自宅では大小様々な形の食器を使いやすいように食器棚に収納していました。中でも陶器の食器は種類も豊富で、見せる収納でも楽しんでいました。食器と料理の盛り付けにもこだわり、手作りのランチョンマットや箸置きで季節感を添えて食卓を華やかにしていました。
このような対象者の生活背景、価値観を抽出し、デザインに落とし込む点は人間工学との接点となります。
素敵な洋服を着ると心が躍るように、食器も目で楽しみ、食べたいという食欲を喚起する着物のようなものです。人間の五感に働きかけ行動に移させるという新しい視点から考えた介護食器です。

評価結果データ
推薦者

広報委員会

お問い合わせ
企業名・担当部署名

EMIRAS DESIGN (エミラスデザイン)

担当者名

榎原瑠美

e-mail

info@emiras-design.com

その他連絡先

共同製作者 弄月窯 梅村知弘(弄月)
愛知県瀬戸市赤津町43
e-mail:seihougama@mte.biglobe.ne.jp

製品製造元

EMIRAS DESIGN (エミラスデザイン)
〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄5丁目26-39 GS栄ビル 3F
使う人のニーズ・好み・症状に合わせてオーダーメイドで製作致します。

更新日

2021年11月04日

<製品紹介>

■ヤサシサノカタチ。製品サイト
https://yasashisanokatachi.shopinfo.jp/
■匠のふるさと【赤津焼】
https://www.youtube.com/watch?v=AwPJr1-weKE
■あいちの地場産業 赤津焼
https://www.pref.aichi.jp/sangyoshinko/jibasangyo/industry/akatsuyaki.html



 


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