刊行物・成果物

コラム

日本人間工学会が毎月発行している学会ニュースレターに掲載したコラムです。

Vol.4 2019年11月

鳥居塚崇 国際協力委員長

先日ACED(Asian Council of Ergonomics and Design)の評議会でインドのパンジャブ州ジャランダルに行ってきました.ジャランダルはシーク教の総本山のあるアムリトサルから約80km東に位置します.インドではさまざまなことに気付かされました.アムリトサルからジャランダルまではタクシーで移動したのですが,道路の真ん中を牛が歩いていたり,堂々と逆走している車が多かったり,道路には車線が引かれているものの多くの車はほとんど車線を守っていなかったり…しかし,それでもほとんど事故を見かけませんでしたし,また私がインドで接した方々からも事故経験の話は聞きませんでした.それらに驚く半面,私たちはどれだけマネジメントされた社会で生活しているかをひしひしと感じました.私が訪ねた地域が北西部のパンジャブ地方ということもその一因なのか,インフラがあまり整っているとはいえず,また交通ルールも十分に守られているとはいえず(交通ルールだけではないかもしれないですが),常にリスクに囲まれた中で生活しているような印象を受けました.そこで生活している人たちは恐らく,リスクに満ち溢れた中で上手くやっていくための嗅覚が発達しているのでしょう.一方の私たちの社会に眼を向けてみると,インフラはインドとは比べられないほど整っており,また私たちは多くのルールや仕組みに守られています.しかし,私たちを取り囲んでいる複雑な社会・技術システムは時には手に負えなくなることを私たちはたびたび思い知らされますし(先の台風や洪水の被害に遭われた方々にはお見舞い申し上げます),ルールや仕組みを超越した事態に遭遇すると私たちは無力になることもたびたび思い知らされます.つまり私たちは複雑なシステムやルールに守られている半面,危険源になり得るものすべてに対策を講じることが困難であるばかりでなく,いろいろな要素が複雑に絡み合っていてそもそも何が「源」か判らない状態になっているのでしょう.このように考えると,インドのそれとは質は異なりますが,私たちも常にリスクに囲まれた中で生活していると考えてもいいのかもしれません.だとすると,私たちにとって重要なのはリスクに満ち溢れる中で上手くやっていくための嗅覚を養うこと…人間工学(Human Factors and Ergonomics)はますます重要になりそうです.


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Vol.3 2019年10月

赤松幹之 編集委員長

ミシュランというとレストランガイドだと思っている人が多いかもしれないが、実際には自動車によるドライブのバイブルである。30年ほど前にカーナビのHMIの研究を始めたのだが、運転支援のあり方を考えるためにその歴史を調べ始めた。ミシュランガイドは1900年に初版が出されたが、さすがにこの初版は入手困難で、最近のオークションでは200万円超の値がついている。しかし、復刻品は入手でき、それを眺めていると当時の自動車の使われ方が良く分かる。主な街ごとに、宿泊施設と自動車修理工場、ガソリンの入手箇所、電報局などである。ホテルの設備の項目の中に写真の暗室の有無というものがあり、同時の裕福な自動車所有者がドライブに行って写真を撮ることを趣味としていたことが伺える。さらにその当時を窺わせてくれるのがガソリンの入手箇所である。この頃はまだ独立したガソリンスタンドはなく、修理工場でガソリンが売られていた。ベンジンも使えたので雑貨屋さんでも入手できた。そしてフランスらしいのは、画材店でも入手できたことである。これは油絵の具の薄め液である揮発性油(ペトロール)が使えたからである。ちなみに、ミシュランガイドにレストランガイドが掲載されるようになったのが、1926年であり、この時はレストランのカテゴリは高級かどうかで分かれていた。現在のように星付きになったのが1931年であり、1936年には、3つ星とはそこをドライブの目的地するほどの価値があることを示しており、2つ星はドライブの途中で寄り道をしてでも立ち寄る価値があることと決められた。ミシュランガイドはタイヤを消耗させて販売を伸ばすためにできたと言われることもあるが、ミシュランはガイドブック、地図(1905年〜)だけでなく、街の看板の整備(1910年〜)、目的地までの経路案内サービス(1910年〜)そして道路標識(1926年〜)も行い、壮大なビジョンを持って自動車によるモビリティを支えてきたのである。


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Vol.2 2019年09月

松田文子 広報委員長

まず初めに、この度の台風15号の影響により被害に遭われた会員の皆様にお見舞い申し上げます。まだ、地域によっては停電や断水が続くなど、不便な生活を強いられていることと思います。身近なものを使った工夫、安全や健康への配慮、情報の適切な伝達など、人間工学の知見が活きる場面もあろうかと思います。一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。
 さて、今回のコラムでは、自分自身の経験を書きたいと思います。先日、ある航空関係の講演会で、参加者の方から「若いころから人間工学に興味があったのですか」という質問を受けました。振り返ってみると、高校時代、世の中の多くの事象は文系理系で分かれているわけではないないのに、大学入試・学部のほとんどは文系理系に分かれていることに違和感があり、そこから発展していわゆる学際領域に興味もったことを思い出しました。「人間」が好き、「現実的なこと」が好きで、工学系の中でも人を相手にする学問であり、実学でもある「人間工学」に惹かれて大学を受験し、現在に至ります。どうやら、思い描いていた世界に飛び込めたようです。みなさまは、どのようなきかっけで人間工学と出会いましたか?是非、会員の皆様のお話もお聞きできたらと思います。


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Vol.1 2019年08月

吉武良治 理事長

第6期理事長の吉武です。2014年にスタートしたニュースレターもvol.81を迎え、本号よりコラムを掲載することになりました。学会員の皆様のコミュニケーションの場としてさらに活用していただければと思います。私からは最近、印象に残っている2つの情報を提供します。ひとつは今年の東京大学入学式での上野千鶴子氏の祝辞です。マスコミで話題となりましたのでご存知の方も多いと思いますが、現代社会の状況や多様性を尊重する大切さなどが的確に表現されています(Webサイトにて全文が掲載)。もうひとつは、書籍「ファスト&スロー」です。ノーベル経済学賞を受賞したD.カーネマン教授(心理学者)の著書で、訳本が2012年に発行されています。人間の意思決定がいかに曖昧でバイアスに影響されているか、学術的に詳らかにしています。人間工学会の会員の皆様は、人間工学的な観点での問題解決を求めている方が多いと思いますが、単に解を見つけるだけでなく、人間についてのより深い理解に基づいた課題解決を提案し、説明できることが、人間工学の特徴であることに気づかれていると思います。そしてその人間理解に関する知識や経験、事例は、異なる業種や仕事においても役にたちます。是非学会のイベント/活動にご参加いただき、情報発信してください。もしそのような場がみつからないようでしたら、遠慮なく声をかけてください。一緒に場の創出を検討していきましょう。


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