イベント案内

投稿日:2013年07月01日|投稿者:JES事務局

人間工学へのご招待-マンホールの蓋はなぜ丸い?

【開催日】2012年12月1日(土)
【場所】埼玉県立大学・中講義室
【記事担当】広報委員会 大内啓子((財)日本色彩研究所)

概要
主催
一般社団法人日本人間工学会,一般社団法人日本人間工学会関東支部,
公立大学法人埼玉県立大学
期日
2012年12月1日(土) 14:00~15:30
場所
埼玉県立大学 中講義室 (埼玉県越谷市三野宮820番地)
講演プログラム
演 題
「人間工学へのご招待-マンホールの蓋はなぜ丸い?」
徳田 哲男 (埼玉県立大学保健医療福祉学部 教授)
公開講座の様子

日本人間工学会の公開講座が2012年12月1日(土)14:00~15:30に,第42回関東支部大会が行われている埼玉県立大学中講義室において開催されました。本公開講座は,関東支部大会地域公開講座と日本人間工学会の公開講座の共催企画です。

講演は埼玉県立大学教授の徳田哲男先生,司会は青木和夫理事長により行われました。

今回のテーマは「人間工学へのご招待」,副題として「-マンホールの蓋はなぜ丸い?-」という,非常に魅力的なタイトルです。

徳田哲男先生
[徳田哲男先生]

講演の内容は,第42回関東支部大会のテーマである「共生社会を拓く人間工学」にちなみ,「共生社会に生きる」,「共生社会を拓く方策(自立に向けた共生社会へ)」という大きく2側面から,自立継続のあり方,バリアフリー,ユニバーサルデザイン,自立支援のあり方,設計思想にアフォーダンスを取り込むなど,非常に奥の深いお話を頂きました。以下にはご講演の極々一部をご紹介いたします。

【共生社会を生きる】

まず,最初の話題では,「共生社会とは何か」「共生社会のはじまり」「日本における共生の知恵“江戸しぐさ”」についてお話を頂きました。

  • 共生社会の始まり
    共生社会が開花する土壌となったのは,1979年に発表された国際障害者年行動計画「ノーマライゼーションの理念」だが,2006年の国際人権法に基づく障害者の権利に関する条約では日本は批准しておらず,やっと2011年に障害者基本法が施行されるに至った。ただ,日本に共生の考えがなかったかというと,そうではなく,古く江戸の人々の生活・動作として,「傘かしげ」や「こぶし腰浮かせ」などといった「江戸しぐさ」の中に,すでに行われていたのだ。当時の江戸の町は人口が超過密する都市であり,そこで皆が心地よく暮らす,皆のためを思いながらおもてなしの心を持って暮らす,それこそが日本版のホスピタリティーの精神であり,これらの土壌があってこそ共生社会が成立していくのだという,とても説得力のあるお話をいただきました。
  • 人を大事にする工学が「人間工学」
    人間工学とは,どのような学問なのか,日本における歴史等をわかりやすく解説いただきました。その中で,「昔は心拍のデータをみるのも,一つ一つR波を拾って,物差しを用いてデータを観察したが,現在は生データをしっかり見るということがなくなってきた。生のデータをしっかり見るという時期が1回はあってもいい」というお話が非常に印象的でした。
  • 人間工学の諸原則<安全性・使いやすさ・信頼性>
    安全性の向上や使いやすさの向上,信頼性の向上に関する人間工学の諸原則を活用することで,共生社会に貢献できるというお話です。

    徳田哲男先生
    [徳田哲男先生]

    事例では,水洗レバーの操作方向や洗面台の洗面ボール内に設けられた2つの穴の理由等を紹介し,フールプルーフ,フェールセーフ,フェールストップ,コンパティビリティ,ポピュレーションステレオタイプ等について解説していただきました.そして,“マンホールの蓋が丸”の答えですが,四角では穴の対角線の方が長いので落ちてしまうからでした。また,信頼性の向上については,冗長設計が必要であり,それは自然界から教えられることがたくさんあるのだと,“葉脈の一部を虫に食われても植物は死なない”ことを例にとり,お話いただきました。
【共生社会を拓く方策】

自立に向けた共生社会,自立継続のあり方,自立支援のあり方などについてのお話です。

  • 自立に向けた共生社会へ
    年齢と自立生活に要求される身体機能水準の関係図により,自立継続期間を延長する方策について,1)バリアフリー等の社会基盤を整備することによって,より多くの年代層の方たちが自立した生活をすることができる。2)個人レベルでは身体機能の低下水準を遅らせるために,適度の運動や活性化(保健行動の充実)を行うことが必要。3)住宅改修をはじめから完璧に行うのではなく,供用品や福祉用具など,段階的に用いることがよいとまとめられました。
  • 自立継続のあり方
    「バリアフリー化からユニバーサルデザイン化へ」,「生活環境制限には“さじ加減”を」という2つのテーマについてのお話を頂きました。
    まずはユニバーサルデザインの誕生からUDの7原則についてお話がありましたが,この7原則は特に新しいものではなく,人間工学の諸原則に対応しているものが多くある。さらに福祉工学,介護技術のボディメカニクスの原則などの既存原則をつなぎ合わせると,7原則と全く同じになる。このUD7原則は世の中に広く受け入れられているけれども,根底にある権利運動を理解した上で,いろいろな製品開発に使われると,さらによくなるのではないかとまとめられていました。
    また,ユニバーサルデザインは日本でも古くからその考え方は存在しており,例えば衣食住をみても,体格の変化に柔軟に対応できる和服,“切る”“つかむ”“さす”など,複数の目的へ瞬時に対応できる箸等は,まさに和のユニバーサル化ではないかというお話もいただきました。
  • 自立支援のあり方
    自立支援を考える場合には,できるだけ生活バリアを少なくすることが大切になるけれども,普及に際しての誤解があるというお話を事例を交えてわかりやすく紹介いただきました。

    徳田哲男先生と青木和夫理事長
    [徳田哲男先生と青木和夫理事長]

    さらに,古典的な福祉用具3点セットについてもお話いただきました。なんと,ライターやメガネ,靴ベラが福祉用具であったとのお話には驚きでした。ライターは第一次世界大戦時に上肢を失ってしまった方や不自由になってしまった方のために開発されたもので,当時のライターは,使用済みのライフルのカートリッジを改造した手作り品であったということです。続いて,モノづくりをする際に,誰を発想先とするのかについてのお話もいただきました。例えば,自動開閉扉やタイプライター,ファクシミリも,元々の発想先は高齢者や障害者であり,健常者を対象にしたものではなかったというお話を伺い,障害を持った方々にとって使いやすいモノは,健常者にとっても使いやすいのだと実感した次第です。
  • 設計思想にアフォーダンスを取り込む
    身近なアフォーダンスの事例を取り上げ,制約を取り入れることで設計者が意図する操作法・使用法へと導く,あるいは誤ったアフォードを惹起させないために,事故なども回避できるといった, 非常に有意義なお話もいただきました。

以上のように,たいへん貴重なお話を盛り沢山に拝聴することができ,あっという間に経過した至福の1時間半であったことをここにご報告いたします。


 


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