Vol.81 2026年6月5日
会報・人間工学専門家認定機構広報担当
目次
- 報告:
認定人間工学専門家交流会(CPEサロン)
井上 翔太(三菱自動車工業株式会社) - 報告:人間工学専門家認定機構 講演会2026
五十嵐 僚(株式会社オカムラ) - 総会報告
- 専門家の会員数
- 編集後記
報告
認定人間工学専門家交流会(CPEサロン)
井上 翔太(三菱自動車工業株式会社)

2026年3月11日(水)、芝浦工業大学豊洲キャンパスにて人間工学専門家交流会(CPEサロン)が開催されました。本サロンには、企業実務者、大学関係者など、人間工学専門家、準専門家、プラクティショナー計21名が参加しました。
当日は、認定機構の活動状況の共有に続き、参加者4名によるショートプレゼンテーションや自己紹介、近況報告が行われました。急な欠席者が出たため当初のタイムスケジュールにはやや余裕が生じましたが、各参加者の発言が活発に交わされ、結果として時間が押すほど盛り上がりを見せる会となりました。
業務内容や研究テーマの紹介に加え、組織における人間工学の活用状況や課題、組織レベルの向上を目指した資格取得の取り組みなど、実務に根ざした話題が多く共有された点が印象的でした。
私自身は、人間工学専門家の資格取得後、今回が初めてのサロン参加となりました。交流の中で、医療分野におけるユーザビリティ評価の位置づけに関する話題も取り上げられ、製品開発や社会制度の中で人間工学が果たす役割が、今後さらに重要になっていく可能性について意見が交わされました。
特定の業界に限らず、他分野においても同様の流れが広がっていくことが示唆され、人間工学専門家としての知見や関与の価値がますます高まっていくことを実感しました。私自身は、主に車載機器などのHMI(Human Machine Interface)のユーザビリティ評価に携わっていますが、今回のサロンでは、これまで以上に「人間工学をどのように社会や組織に実装していくか」という視点で多くの示唆を得ることができました。分野や立場の異なる参加者との率直な意見交換は、本サロンならではの価値だと感じます。
当初予定されていたディスカッションの時間は割愛されましたが、その分、希望者による懇親会の場で、より踏み込んだ情報交換が行われました。専門分野や世代を越えた対話を通じて、人間工学専門家同士の横のつながりの重要性を改めて認識する機会となりました。
今回のCPEサロンへの参加を通じて、人間工学の社会的意義と今後の可能性を再確認するとともに、自身の専門性を実務の中でどのように活かしていくかを考える良い契機となりました。今後もこのような交流の場に積極的に参加し、人間工学の発展と実装に貢献していきたいと考えています。

報告
人間工学専門家認定機構 講演会2026 開催報告
五十嵐 僚(株式会社 オカムラ)
人間工学専門家認定機構総会の開催にあわせて、認定人間工学専門家による講演会が開催されました。当日は2件の講演が行われました。ひとつは製品開発事例、もうひとつはデザイン思考浸透に関するもので、どちらも大変興味深い内容でした。参加者は現地・WEBあわせて94名でした。
- 開催概要
【開催日】2026年4月24日(金)15:00~16:40
【開催形式】現地・オンライン(Zoom)によるハイブリッド開催
【会場】TKP市ヶ谷カンファレンスセンター(4D)
講演1
平田 一郎 氏(兵庫県立工業技術センター)
演題:「兵庫県立工業技術センターにおける人間工学支援」
平田氏は2023年にCPE(認定人間工学専門家)資格を取得し、その過程で専門性の明確化や人的ネットワークの拡大など、資格の有用性を実感されたとのことです。現在は公設試験研究機関において、「製造業の町医者」として製品評価および開発支援に従事されています。
講演では、以下の3つの製品開発事例が紹介されました。
まず、株式会社ノーリツの給湯器操作パネルの開発では、人間中心設計プロセスを導入することで、従来の延長線上にとどまらない新たな機能の実装が可能となったとのことです。ペーパープロトタイプからタッチパネル試作へと段階的に検討を進めるとともに、多様な関係者を巻き込む開発プロセスの重要性を強調されました。
次に、株式会社セイバンのランドセルベルト開発では、「背負って軽く感じる」という体感価値の定量化に取り組んだ事例が紹介されました。年長児12名を対象とした実験において、ベルト構造の改良が安定性および揺れの低減に寄与することを確認したほか、センサ付きマネキンを用いた評価により圧力分散と体感重量の関係をデータとして示されました。また、中国市場向け製品開発における要求仕様の違いについてもお話しいただきました。
さらに、株式会社ダイヘンの溶接ガングリップ開発では、作業負担軽減を目的として、「握りやすさ」「作業姿勢」「熱の影響」の3要素を軸とした構造化コンセプトに基づく設計が行われたとのことです。クレイモデルや3Dスキャナ、モーションキャプチャを活用し、把持形状と作業姿勢の関係を分析するとともに、発熱部の配置変更など複数の観点から改良が進められたそうです。
講演後には、「長期使用(ランドセルの場合は6年間)を見据えた評価の重要性」や「企業との共同研究の経緯」に関する質問が寄せられました。平田氏は、セミナーや学会での事例発表を通じて、企業との関係性を築いているとのことで、発信することの重要性を感じました。
講演2
太田 智子 氏(コニカミノルタ株式会社)
演題:「コニカミノルタにおけるデザイン思考の浸透 〜顧客起点の活動として〜」

太田氏より、コニカミノルタ社のDNAである「みたい」に応えるについて、多様な「みたい(看たい、診たい、視たい、見たい、観たい)」の紹介がありました。続いて、所属するデザインセンターの主な活動について、デザイン戦略やブランディングデザイン、プロダクトデザイン、デジタルコミュニケーションデザインなど多岐にわたるとの説明がありました。
続いて、BtoB領域におけるデザイン思考の実践として、「体験価値の創造」を中核としたマインドセットの重要性が示されました。ユーザー体験(UX)とステークホルダーや仕組みに着目したサービスデザインを統合的に捉え、「Deep Diving」と「Creative Dancing」を往復するプロセスが紹介されました。
社内研修ではオンライン形式のグループワークを行い、「遊び心を持つこと」、「定性(五感、身体性)を重視すること」、「不確実性や曖昧さを受容すること」といったマインドセットの醸成を重視しているとのことです。さらに、研修後もマインドセットを継続し、各職場での周囲への発信により、共創が起きやすい場づくりを目指しているとのことです。
また、デザイン思考と人間工学について、自転車の前輪(心理学)と後輪(人間工学)に例えて説明があり、心理学的アプローチが共感(ユーザー理解)傾聴のスキルや共創に向けたコミュニケーションを担う一方で、人間工学は現場理解や客観的分析、ソリューション具体化を支える役割を果たします。両方のバランスを取りながらデザイン思考の実践を進めることが重要とのことです。
最後に、今後のチャレンジとして、研修受講者が活躍できる環境整備と、体験価値創出を組織文化として定着させることが挙げられました。
発表後に「デザイン思考」は周知の考え方ではあるが、これを丁寧に研修を行い、受講者を通じて「思い」を広げていくとお話しされていたことがとても印象的でした。エンジニア、デザイナーだけでなく、モノづくりにかかわるすべての人が、共通言語で話す有効性を感じました。
総会報告
4月24日に開催した機構総会にて、次期機構長選挙が執り行われ、松田文子氏(公益財団法人大原記念労働科学研究所)が次期機構長に決定しました。
5月23日開催の日本人間工学会2026年定時社員総会をもって新機構長に交代となりました。
今後ともご支援のほどよろしくお願いします。
会員数
2026年5月31日現在(2026年4月1日からの人数増減)
- 認定人間工学専門家 217名(±0)
- 認定人間工学準専門家 228名(+9)
- 認定人間工学プラクティショナー 71名(+3)
- シニア認定人間工学専門家 19名(±0)
編集後記
芝浦工業大学でのサロン開催に長年ご尽力いただいた吉武良治先生に、深く感謝申し上げます。私自身、4月より東京に異動し、今後の交流を楽しみにしていた矢先でのご異動は誠に残念です。これまで築かれてきた貴重な交流の場が、今後も変わらず発展していくことを期待するとともに、微力ながら会場の提供等を通じてお手伝いできればと思っております。(広報担当 松岡)