会報・人間工学専門家認定機構 Vol.72

Vol.72 2023年10月25日
会報・人間工学専門家認定機構広報担当

目次

報告

人間工学専門家認定機構 講演会2023

松岡敏生(三重県産業支援センター)

人間工学専門家認定機構総会の開催にあわせて認定人間工学専門家・準専門家による講演会を開催しました.我々の生活において身近な生活雑貨の企画・製造・販売を行うメーカーでの人間工学実践事例と医師による医師にも使いやすい製品開発事例の2件の講演が行われました.ユーザーが全く異なる製品であるためそれぞれの開発背景は異なりますが,人間工学的アプローチでの共通項は多くいずれの講演も興味深い内容でした.参加者は,現地25名、オンライン71名でした.

  • 開催概要
    【開催日】2023年4月14日(金)15:00~16:40
    【開催形式】現地とオンライン(Zoom)のハイブリッド開催
    (現地会場:TKP新宿カンファレンスセンター)

【講演1】
「人間工学とデザインのバランス」

山下 紗恵子 (株式会社マーナ)

1000円前後の生活雑貨は,高級な嗜好品などとは異なり,モノを使わず(試さずに)に直感で購入することが多いため,売り場でどのように手に取ってもらうか,消費者に理解してもらうか,が重要となる.「良さそう」と感じてもらうと購入につながることが多い.消費者テスト,ユーザビリティテストは,女性モニターで行うことが多い.これは,女性の方が日常生活用品への関心が高く,モニターとしての感度が高いためである.とくに初期の機能設計では女性社員によるワイガヤミーティングが多く行われる.

歯ブラシの開発では,グリップの良さそうな他社品のハンドルに対して,シンプルなハンドルを採用した.これは,ハンドル形状の比較評価で大差がなかったこととユーザーがハンドル形状に合わせにいくため大きな負担が生じないと考えたためである.
ハンディマッシャーの開発でハンドルと刃の形状をデザインしたところ,社内モニターやバイヤーには高評価で売り上げを期待したが思うように売り上げが伸びなかった.社内モニターやバイヤーは感度が高すぎて,消費者の使いやすそうという評価とは異なったためである.

デザイナーが考えた使いやすいデザインとユーザーが想像できる範囲をマッチさせて,「良さそう」な製品開発をすることが必要である.


【講演2】
「人間工学に基づいた医療従事者の働き方改革と機器開発支援」

松崎 一平 (医療法人山下病院)

医療機器は,患者を治療するための機器であるが,それを使用する医師,看護師などの中間ユーザーにとっても使いやすい機器,環境であるべきである.

消化器系の医療従事者は,首,腰,肩,手首に痛みを抱えていることが多いという報告があり,演者らの調査でも有病率は44.5%であった.特に,女性の医師は筋力が弱いため,手首に疾病を伴うことがあり,医療を継続することができず,手術に至ることもある.

内視鏡従事者のための7つの人間工学的対策として,モニターの配置や作業面の高さ,20-20-20ルールなどを提案して,医療従事者に過度の負担がない働き方の実現を目指している.また,立ち姿勢の身体を支えるアシストスーツ「アルケリス」や「立つ」と「座る」を組み合わせた作業環境を実現できる「ピルエット」など,医師にも使いやすい,筋骨格系の負担も少ない製品の紹介があった.

現在,医療労働関連MSDs研究部会*を立ち上げ,演者が部会長となり,医療従事者の筋骨格系障害を防ぎ,快適な労働環境の実現を目指している.部会には企業からの参加も多く,医療従事者,大学,モノづくり企業らの連携が期待されている.

参考サイト

*日本人間工学会 医療労働関連MSDs研究部会
https://www.ergonomics.jp/TG/MSDS/

専門家の新規登録

(50 音順、敬称略)

  • 認定人間工学準専門家
    (2023年10月1日認定)梅村裕介、中居真愛、林香月、林友彦、福田龍誠、堀伊吹、本田勝志

認定状況

2023年10月23日現在(2023年4月1日からの人数増減)

  • 人間工学専門家     208名( – 4名)
  • 人間工学準専門家    184名( +6名)
  • 人間工学アシスタント 17名( ± 0名)
  • シニア人間工学専門家   16名(  +3名)

編集後記

前回の会報でも取り上げましたが,CPEのコミュニティをより活発化させるために新たにLinkedInでのCPEグループの運用が開始されました.日本人間工学会や専門家認定機構のホームページでは充実したコンテンツで整理された情報が発信されていますが,LinkedInはより気軽にCPEやCPEのみなさんを知ることができ、電車通勤時のスマホコンテンツとしてはピッタリです.とは言いましても,発信ではなく受信ばかりですので,今号の発行を記念?して,「発行しました!」と書いてみようかと思っています.みなさまも,ぜひ,CPEのコミュニティーチャンネルに登録して,情報を発信してみてください.(広報担当 松岡)

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