会報・人間工学専門家認定機構 Vol.80

Vol.80 2026年1月30日
会報・人間工学専門家認定機構広報担当

目次

専門家からの活動報告

IT企業の事業開発における人間工学の活用 – NEC 白浜リビングラボの試み –

中尾 勇介(NECソリューションイノベータ株式会社)

私はこれまでIT企業において、研究、UXデザイン、事業開発に携わってきました。その中で、研究と事業の連携が生まれにくいことや、事業の仮説づくりにおいて顧客視点が机上調査や二次情報に偏りやすいことを実感してきました。こうした問題意識を背景に、2022年より和歌山県白浜町を拠点として、研究および事業の仮説検証の場である「NEC 白浜リビングラボ」の運営に取り組んでいます。

白浜町は観光地として多くの人が訪れる一方で、人口減少や高齢化といった課題も抱えています。そのため、日本社会の実態に近い状況の中で試行錯誤を重ねることができる環境であると捉えています。当リビングラボでは、「研究と事業の接続」および「事業仮説と、実際の顧客が抱える生々しい課題との接続」の場として、
(1) 問いの言語化
(2) 検証すべき仮説の整理
(3) フィールドでの実験
(4) 結果の振り返り
というサイクルを大切にしています。

これらの活動は人間中心設計をベースとしており、行動観察、インタビュー設計、構造化シナリオ法、プロトタイピング、実験計画など、人間工学に関わる各種手法を活用しています。研究や技術については顧客にとってどのような価値を持つのかを整理し、検証可能な形に翻訳することを心がけています。

企業主導のリビングラボであるがゆえに、運営上の課題も少なくありません。一般に、行政や大学が主導するリビングラボでは、自治体施策や教育・研究といった文脈が参加者の動機付けとなり、継続的な関与を得やすい傾向があります。一方、企業主導のリビングラボでは、企業の営利活動への協力という位置づけのもとで地域の理解を得る必要があり、活動が一過性にとどまりやすい点が課題となります。こうした課題に対して、本リビングラボでは人間中心設計の考え方を運営そのものに適用し、白浜町役場への出向や地域出身者の採用、中間支援組織(一般社団法人白浜イノベーションハブ)の設立・運営を通じて、地域の視点から課題解決にも資する体制づくりに取り組んでいます。

今後は、特に「研究と事業の中期的な接続」を強化していきたいと考えています。これまで大先輩との対話を重ねる中で、この問題の本質は、研究者と事業開発者という強い想いを持つ「人」と「人」をどのようにつなぐかにあると考えるようになりました。リビングラボは、実際の顧客に向き合うミクロなレベルでの接続として有効である一方、それだけでは中期的な連携を実現するには十分とはいえません。今後は、ビジョンの作成・共有といったマクロな視点からのアプローチも組み合わせながら、企業活動の中で人間工学の視点をより効果的に活かす方法を探っていきます。

(写真)白浜リビングラボでの活動の様子

報告

日本人間工学会関東支部第55回大会

 

日本人間工学会関東支部第55回大会(2025 年 12月14日)で,認定機構企画セッション及び若手向けランチョンセミナーを開催しましたので報告します.


1.企画セッション「認定人間工学専門家資格制度の展望」

程 思達(日産自動車株式会社)

日本人間工学会関東支部第55回大会において、企画セッション「認定人間工学専門家資格制度の展望」が開催されました。本セッションでは、認定人間工学専門家(CPE)資格制度の現状と意義を改めて確認するとともに、実践事例の共有および今後の制度改善の方向性について、話題提供と意見交換を通じた議論が行われました。

前半の話題提供では、3名の登壇者がそれぞれ異なる立場・分野から発表を行いました。

私(程 思達(日産自動車株式会社))からは、自動車メーカーにおける製品開発および評価業務に従事する中で、CPEとしての専門性が周囲から認知され、専門家として信頼を得ながら業務を推進している実例を紹介しました。CPE取得が、個人の能力証明にとどまらず、組織内外における専門家としての立場形成に寄与している点が示され、資格取得の価値と意義を具体的に伝える内容でした。

嶺野あゆみ氏(株式会社オカムラ)は、企業内資格制度の運用事例として、自社資格の信頼性を担保する手段の一つとして、認定人間工学プラクティショナー資格を組み合わせるモデルを紹介しました。人間工学専門資格を企業活動にどのように位置付け、活用していくかという観点から、本資格制度の新たな活用可能性を示す発表でした。

常見麻芙氏(医療法人山下病院)は、医療現場において現在進められている人間工学応用の実践を多面的に紹介し、現場ニーズの把握から課題の可視化、対策の導入に至るまでの取り組みを報告しました。医療分野における具体的なニーズや課題解決に対して、人間工学をどのように適用できるのかを示す好事例として、参加者の関心を集めました。

後半の意見交換では、榎原機構長の進行のもと、参加者を交えた自由闊達な議論が行われました。申請時に求められる書類の煩雑さや、試験用ガイドブックの内容が時代背景に即していない点など、資格制度運用上の課題が共有されたほか、CPE資格の社会的認知度向上や、認定者が専門性を対外的に示しやすくする仕組みの必要性についても意見が交わされました。また,将来資格取得を志す人材に向けた講座や学習機会の提供についても前向きな提案がなされました。

本セッションは、当初予定していた時間を超えるほど意見交換が活発に行われ、分野や立場の異なる専門家が社会のさまざまな現場で活躍している現状を共有できる貴重な機会となりました。
今後、こうした議論を踏まえ、認定人間工学専門家資格制度のさらなる改善と普及促進に向けた検討が進められることが期待されます。


2.若手向けランチョンセミナー

山田 幸子(本田技研工業株式会社)

日本人間工学会関東支部第55回大会において、『学生・若手支援セミナー 〜 学会ならではの楽しさ ナカマが増える美味しい90分 〜』を実施しました。関東の大学・高専の9研究室から,学生28名が参加しました。

参加者は、セミナーの前半は人間工学を引っ張ってきた先輩(芝浦工業大学の吉武良治先生)の話を聞き、目標を持って行動することの大切さを改めて学びました。後半は少人数のグループに分かれてのフリートークを楽しみました。初めて会う人ばかりのため、最初は硬い雰囲気でしたが時間が経つにつれて笑顔も出て、会話が盛り上がっていきました。

参加者からは、「同じ世代の人と交流する機会がもらえてうれしかった」、「色々な分野の研究や仕事の話を聞けてよい経験になった」、「他の人の目標や興味があることを通じて自分もやってみたいなと感じた」、「今日のことを活かし頑張りたいです」などの感想が寄せられて、満足度の高さがうかがえました。

企画側としては、若手にこのような機会を提供し続けることの価値を再認識しました。一方で今後に向けた気づきもありました。ランチタイムの活用は学生に好評ですが、食事手配の都合から現状事前登録制で開催しています。ただ当日、会場の外から中の様子を覗いている学生もいましたので、今後飛び入り参加も受け入れられるよう改善したいと思います。

このような企画は大会実行委員会や学生を指導している先生方のご理解・ご協力で成り立っています。会場や時間帯に配慮してくださった大会実行委員会の皆様、学生に参加を勧めてくださった先生方にも改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

人間工学の更なる普及には学生・若手の成長や協力が不可欠です。今後の支部大会・全国大会でも同様の機会を提供するなど、機構のイベントや資格制度を通じて、人間工学を実践する若手の育成に貢献し続けたいと思います。

  • 人間工学専門家認定機構(BCPE-J)では2022年以降、一般社団法人日本人間工学会の若手支援委員会と連携して、人間工学に携わる学生や若手を対象にセミナーを開催しています。学生らがセミナーに参加し、同じ志を持つ仲間や先輩との交流を楽しむことが人間工学への関心アップや社会での実践、将来の資格取得につながると期待しています。

会員数

2026年1月30日現在(2025年4月1日からの人数増減)

  • 認定人間工学専門家        212名(+2)
  • 認定人間工学準専門家       216名(+10)
  • 認定人間工学プラクティショナー 34名(+15)
  • シニア認定人間工学専門家      19名(±0)

編集後記

本号冒頭では、会員からの企画提案をきっかけとした活動紹介を掲載しました。研究と事業、地域と企業をつなぐ取り組みからは、人間工学が現場でどのように活かされているのかが伝わってきます。こうした会員一人ひとりの実践や挑戦を共有することは今後の活動の大きな参考になります。日頃の研究や業務の中での工夫や試みを、ぜひ会報誌を通じて紹介してください。多くのご投稿をお待ちしています。(広報担当 松岡)

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