会報・人間工学専門家認定機構 Vol.65

Vol.65 2021年7月7日
会報・人間工学専門家認定機構広報担当

目次

コラム

変わる「人間工学とは何か」

鳥居塚崇(日本大学生産工学部)

 先日のCPEJ(認定機構)のワークショップや最近のJES(日本人間工学会)のシンポジウム等に参加して気づいたことがありました.それは「人間工学っていろいろな捉え方があるからね」ということです.私たちは人間工学の専門家として,その核となるべき「人間工学とは何か」の捉え方については認識を共有しておく必要があると思います.もちろん,対象とすべき領域や何をアウトプットとするかは,それぞれのメンバーが日々取り組んでいることに依存するので,多岐に亘っていても問題はありません.

2〜3年前にIEA(国際人間工学連合)のHPにおける「What is Ergonomics(人間工学とは何か)」のページが大きく書き換えられました(そのコアとなる「定義」の部分は以前のものと変更はありません).それにともない,人間工学専門家に必要なコアコンピテンシーが,本年,大きく改定されました.その基になっているのは2012年に発表されたDul, J.ほかによる「人間工学の未来」に関わる論文です.

人間工学は長い間,作業環境の改善などを目的に発展してきました.現在でも発展途上国を中心に,働き方や,働く環境に関して多くの取り組みがなされています.しかし先進諸国においては,オフィスワークでのMSD(Musculo-skeletal Disorder:筋骨格系障害)に関する研究のように引き続き大きな関心が持たれている領域もありますが,例えばUXやUI,VR,サービスデザインのように人間工学で扱う領域でもありながらそれらを専門に扱う独立した領域が散見されるようになり,人間工学のアイデンティティが失われつつありました.

そこで,従来から取り組まれてきた人間工学の領域に加え,先進諸国で扱われている領域,人間工学の領域でありながら他の分野に組み込まれそうな領域など,人間工学に関わるすべての領域に共通して考えることができる,新しい「人間工学の視点」が提案されました.この視点は先述のDul, J.の論文で提案されたものですが,IEAの「What is Ergonomics(人間工学とは何か)」のページや人間工学専門家のコアコンピテンシーの冊子にも重要な考え方として述べられています.それによれば,人間工学に必要な視点は以下の3点となります.

・人間工学はシステムズアプローチをとる分野である
(細部に拘るだけでなく,システム的=包括的なものの見方が必要な分野であるということ)
・人間工学はデザイン指向型の分野である
(現象の解明だけでなく,アウトプットを想定した広義のデザイン分野であるということ)
・人間工学は「System Performance」と「Human Well-being」の両方の最適化を目指す分野である
(どちらか一方を目指すだけではなく,人間工学である以上,双方の最適化を目指す必要があるということ)

これらに加え,さまざまなステークホルダを意識する必要があることも述べられています.これまでの人間工学は,どちらかというと「働き手」あるいは「ユーザ」を想定したものでしたが,それだけではなく「経営層」や「マネージャクラス」をも想定することが重要だということが強調されています.「Human Well-being」だけでなく「System Performance」も考慮するとなると,確かに当然のことかもしれません.

以上から,「人間工学って何??」と問われた際には,上記3点に加え「複数のステークホルダを意識すること」を考えながら,理論や原則,データ,方法論を広義のデザインに適用する領域,ということになるでしょう.
いずれにしても,私たちが社会で活躍するためには,そして社会の中で人間工学のプレゼンスをより高めていくためには,これを機に私たち人間工学専門家のマインドも変革する必要があるかもしれません.

画像:core competencies

報告:「問い」をデザインするオンラインワークショップ 参加報告

黒米 克仁(日本アイ・ビー・エム株式会社)

本年2021年3月6日に実施した人間工学専門家認定機構会員限定の『「問い」をデザインするオンラインワークショップ』について報告します。

機構では、毎年CPEサロンなどの会員同士の交流の場を設けていましたが、コロナ下で集合形式での実施が難しいことからオンラインでのイベントを企画・実施しました。ワークショップの形式をとることで、オンラインでありながらも参加者がより積極的に参加できるような企画となっています。

■ 実施概要
外部のワークショップの専門家であるHackCampさんのファシリテーションにより、以下の要領で実施されました。
・実施日時: 2021年3月6日(土) 13:00-16:00
・参加者:当機構会員ワークショップ参加者:26名 運営:4名
・アジェンダ…全体での流れの説明の後、チーム単位での“ワールドカフェ”による意見出し、それを念頭においた“QFT: Question Formulation Technique”による「問い」の作成と続きました

  1. イントロダクション
  2. 環境確認・参加者自己紹介
  3. インプット
  4.  ワールドカフェ:「今後起こるであろう人間工学専門家を取り巻く環境変化とその対処方法は?」
    • Round1: 私の業界にどんな変化がおきそうか?
    • Round2: その変化は自分の専門分野にどんな影響を与える?
    • Round3: 今後数年間でどんな現象としてあらわれてくるか?
  5. 休憩
  6. 問いづくり(QFT):これからの時代に通用する人間工学専門家になる
  7. クロージング

・利用ツール…以下のオンラインツールを併用しての実施となりました

  1. Web会議ツール
    • Zoom:ファシリテータから全体へのアナウンス
    • Teams:チーム単位での作業
  2. オンラインワーク用のツール
    • Mural:オンラインでのワークショプ作業(オンライン上の模造紙に付箋をリアルタイムではっていくことができるツール)
    • Google スライド:ファイルの共同編集ツール

■ 参加した感想
参加者の方には積極的に参加いただき、オンラインツールを使った不慣れな環境にも関わらず、多くのアイディアが出されました(図1)。最終的に出てきた“問い”についても今後の人間工学専門家のあり方についての本質的な問いかけが多く、参加者と機構側で課題認識を共有できたのではないかと思います(図2)。私自身も普段行っているワークショップとどう変わってくるのか、実施方法ついても非常に興味があり、参加いたしましたが、複数のツールを使いつつ実施ということでそれなりの運営体制で望む必要があるということを感じました。QFTという手法も、検討すべき“課題”を導き出すという方法として、普段の仕事でも非常に役立つテクニックと思いました。今後もこういった機会を通じて、会員同士の交流やスキルアップができると良いと感じています。


図1. ワールドカフェのアウトプット(A〜Fの各チームの意見がMuralの上に付箋の形式で添付されている)

図2. QFTで作成された「問い」

 

報告:日本人間工学会第62回大会での企画セッション開催

人間工学専門家認定機構事務局

日本人間工学会第62回大会(オンライン)にてCPE企画セッションを開催しました。

一般社団法人日本人間工学会 第62回大会(オンライン開催)
2021年5月22日(土)16:15~17:15 C会場
人間工学専門家認定機構の新しい活動について【人間工学専門家認定機構企画】
オーガナイザー・司会: 八木 佳子(イトーキ)

S05-1 人間工学専門家認定機構の新しい活動 八木 佳子(イトーキ)
S05-2 『これからの時代に通用する人間工学専門家とは?!』について問う-CPEオンライン QFTワークショップ報告- 山本 雅康(ふしみや)
S05-3 Activity Based Working(ABW)への取り組み とCPEへの期待 福住 伸一(理化学研究所)
S05-4 ABWに向けた現状の業務遂行場所に関する プレ実態調査-対面とオンラインの業務場所の比較について- 笠松 慶子(東京都立大学)

専門家の新規登録

(50 音順、敬称略)

  • 認定人間工学準専門家
    (4月1日認定)米田寧
  • 認定人間工学アシスタント
    (4月1日認定)井戸大成、井上竜一、篠原利樹

認定状況

2021年5月30日現在(2021年4月1日からの人数増減)

  • 人間工学専門家     209名(- 2名)
  • 人間工学準専門家    155名( ± 0名)
  • 人間工学アシスタント 16名(+ 2名)
  • シニア人間工学専門家   12名(- 1名)

過去のコラム一覧