| 2001年1月 |
| 日本人間工学会 理事会 |
| ・日本人間工学会理事会では、21世紀に向けた人間工学戦略計画を策定し、学会内部はもとより、社会へ向けて広く提案することにした。 以下に、理事会として暫定的にまとめた戦略計画の課題を示すとともに、戦略計画策定の経過を紹介する。今後、産業界を始めとした学会内外からの幅広いご意見を参考とした上で、戦略課題を早急に実行計画として具体化する予定である。本提言に対する忌憚のないご意見を、日本人間工学会(jes@ergonomics.jp, http://www.ergonomics.jp/)宛にお寄せ頂くよう期待している。 1. はじめに ・エルゴノミクスあるいはヒューマンファクターとも呼ばれる人間工学は、私たちの生活の中に定着してきている。人にやさしい技術、使いやすい機器、生活しやすい環境を考えるために生まれた人間工学は、今では多くの分野で広く応用されている。安全な製品や道具、快適な仕事場や住居、高齢者や障害者にもやさしいバリアフリー環境、使いやすい情報機器、作業関連障害を予防するための対策、心身への過剰なストレスを予防するための対策等、いずれも人の特性に合わせた生活者中心設計を目指す人間工学が実践的に活用されている例である。 ・一方、最近の産業構造の急激な変化や情報技術(IT)革命の進展を背景とし、深刻な社会的問題となっている人々のストレス増加等に見るように、緊急に解決されるべき人間工学上の研究課題は山積している現状である。国際的調和が一層求められる新たな世紀を迎えた今、日本人間工学会として社会に問われているのは、21世紀における人間工学上の課題を迅速かつ的確に解決することを目的としたグローバルで積極的な戦略計画を立てることである。 2.21世紀の人間工学戦略計画の課題 ・新しい世紀における人間工学上の戦略計画は、人間工学に対する時代の社会的ニーズを適切に把握した上で策定されるべきである。日本人間工学会理事会では、短期的・中長期的視点に基づき、優先的・戦略的に実施することが必要と考える人間工学上の課題を以下のように整理した。具体的課題を提案する趣旨は、有限である資源を有効活用した効果的な研究展開を図るための方策を、日本人間工学会として示すことにある。戦略計画課題としては、(1) 人間工学ニーズに対応する課題、(2) 研究組織等に対応する課題、(3) 応用促進に対応する課題、という互いに関連を持ちながら次元としては異なる三軸に分け、それぞれの軸に区分される具体的課題を列記した。なお、近未来に重要性・緊急性が顕在化する人間工学上の重点的課題が常に存在する可能性を念頭におく必要がある。 ・もとより戦略計画は、その実践である実行計画と一体となるべきものである。幸い日本人間工学会は、産業界・研究機関・大学等に所属する幅広い領域の会員で構成されている。理事会としては、人間工学上の戦略計画課題を実現させるため、学会内外を含めた幅広い方々の意見を反映させた実行計画を早急に策定することが必要と考えている。戦略計画に関わる三軸に属する具体的課題は、以下の通りである。 (1) 人間工学ニーズに基づき計画的に実施することが必要な課題 社会構成や産業構造の急激な変化に伴い、人間工学に対する高い社会的ニーズに適切に対応した研究が必要である。具体的には、 ・・・・生活者中心の人間工学設計方法の確立 ・・・・情報技術の人間化に関する指針の開発 ・・・・高齢社会に適したユニバーサルデザイン指針の開発 ・・・・本質安全化に寄与するヒューマンエラー予防対策 ・・・・組織的エラー予防に資する組織人間工学の活用 ・・・・作業とストレスによる健康障害予防策 等を重点的に実施する。 (2) 研究組織と協力体制に関わる課題 ・人間工学ニーズに迅速かつ的確に対応可能な基盤を整えるため、研究組織の充実と協力体制の拡充を図るとともに、人間工学の更なる学術的向上を目指すことが必要である。 具体的には、 ・・・・人間工学を産業に応用するための研究協力体制 ・・・・人間工学専門資格制度の有効活用および人材の開発 ・・・・国際社会における更なる貢献と地域を越えた連携 ・・・・人間工学の体系化と教育の質の向上策 ・・・・科学技術研究における独立領域としての人間工学の確立 ・・・・21世紀に相応しい効果的・効率的な学会組織運営の検討 等を重点的に実施する。 (3) 人間工学応用を促進させるための方策課題 ・実践的領域である人間工学上の研究成果の社会活用を促進させるため、従来とは異なる視点からする新たな展開方策が必要である。 具体的には、 ・人間中心設計など人間工学的思考・概念の社会的普及と実践的活用 ・問題解決に役立つ人間工学情報システムの組織的研究 ・各種人間工学ガイドラインの策定と出版 ・データブック・事典・教科書等の編纂 ・製品の人間工学的評価指標の開発と普及 ・国際標準、国内規格における人間工学の体系的応用 ・国際シンポジウム等の定期的開催 ・政府等公的機関に対する人間工学上の観点から行う推奨と勧告 等を重点的に実施する。 ・新世紀を迎えるにあたり、優先的・戦略的に実施することが必要と考える人間工学上の戦略計画課題を、日本人間工学会理事会として以上のようにまとめた。当然ではあるが、現時点で予測可能な視点から立てた短期的・中長期的戦略計画である。上記戦略計画が想定した課題以外にも、近未来に起こるであろう緊急な社会的要請に基づいて行われるべき人間工学上の課題は多くあると考えられる。 ・既述したように、上記課題を実践するための実行計画を緊急に策定することが、日本人間工学会として今後なすべき重要事項である。戦略課題を実行計画として具体化するためには、産業界を始めとした学会内外からの幅広い協力を得ることが不可欠と考えている。人間工学に関係する多方面の方々から絶大なご支援を頂けるよう、改めてお願いする。 3. 21世紀の人間工学戦略計画課題策定の経過 ・2000年1月に開催された日本人間工学会第84回理事会において、新たな委員会として「21世紀の人間工学を考える」が設置された。新しい世紀に向けた人間工学上の研究戦略課題を理事会として審議した上で、学会内部はもとより、社会へ向けて広く提案することが委員会設置の趣旨である。委員会では、1999年度内に考え方の整理など準備を進め、2000年12月末日までに一定の成果を報告することを目標とし、委員会内に設置された作業部会活動を開始した。学会として本件を審議する場は理事会である。 ・21世紀の人間工学を考える委員会では、戦略策定のための基礎資料を得ることを目的とし、2000年5〜7月にアンケート調査を実施した。調査対象者は、日本人間工学会の理事、各委員会委員長、各支部長、各研究部会長である。調査項目は、学会戦略、研究戦略、具体的方策、学会構成の課題、短期的(2001年から5〜10年程度)・中長期的視点(2010年以降程度)で成すべき活動、21世紀へ向けたキーワード等である。アンケート結果を集約し、理事会で審議を重ねるとともに、学会誌「人間工学」に掲載されている20世紀に日本人間工学会が行ってきた関連する報告を活用し、21世紀における人間工学上の戦略計画を2001年1月に策定した。すでに20年前から提案されてはいるが、現時点でも重要性は認めながらも未解決となっている事項は少なくない。これらの課題は、今回の戦略計画に改めて採用されている。 ・なお、人間工学の国際的な連合組織として、各国・各地域を代表する組織で構成されている国際人間工学会(IEA、http://www.iea.cc/)がある。IEAでは、人間工学を「システムにおける人間と他の要素とのインタラクションを理解するための科学的学問であり、人間の安寧とシステムの総合的性能との最適化を図るため、理論・原則・データ・設計方法を有効活用する独立した専門領域」として定義している。日本人間工学会としては、本文書で提案した21世紀の人間工学戦略計画が、国際的に承認されている最新の人間工学の定義と役割を研究課題として具体化した内容であることを確信している。 |
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日本人間工学会 事務局
2005年7月19日更新